一年に一回、私と夫は決まってN医師のところへ健康診断を受けに行く。
N医院は決して流行っていて、患者があふれているような医院ではない。
ちょっと癖のある人だけど、私はこの方と会っているとゆったりとした気分になって、楽しい。
話は50年遡る。
私たちは娘の通う学校を探して、東京から埼玉にやってきた。
最初に住んだのは与野市の借家。
やがて土地を探して家を建てた。
子供が二人になり、子供のつながりで仲良しの友人ができたころ、地元のお医者さんを教えてもらった。
それがN医院。
大きいけど、なんかがらんとした薄暗い雰囲気の医院で、広い屋根つきの駐車場の薄暗い奥の方に建物があった。
お医者さんは年配の女性で、何となく頼りになりそうな感じだったと記憶している。
N医院の近くに住んでいる友人が、「N先生の家は大金持ちでね、大地主なんだ」と教えてくれた。
それから何年か経って、近くに手ごろな医院ができてN医院のことはすっかり忘れていた。
それが、何十年か経った頃、偶然通りかかったところで広々とした駐車スペースの手前に、モダーンな建物のN医院を見つけた。
「行ってみるか」くらいの感じで健康診断を受けに行った私たち夫婦は、一風変わったN先生といろんな話をすることが楽しくなってしまった。
どこか外国に留学していたらしいことや、医師としてのメッセージが壁に貼ってある待合室で、風貌もしゃべり方も相当癖のあるNさんと話すことが、一年に一度の密かな楽しみなっている。